地域包括支援センターで3年間、社会福祉士とケアマネジャーを兼任していました。担当として回ってくるのは困難ケースが多く、現場では「社福ケース」と呼ばれることもあります。ゴミ屋敷、サービス拒否、引きこもり、セルフネグレクト、虐待が疑われるケース。種類はさまざまですが、関わり方で一番大切なことは、どれも同じでした。関係性をつくることです。
当たり前に聞こえるかもしれません。ただ、困難ケースにおける「関係をつくる」は、普段のケースとは時間の尺度がまるで違います。そこを見誤ると、支援そのものが成り立たなくなります。
「拒否している人」ばかりではない
困難ケースというと、支援を拒んでいる人を思い浮かべがちです。実際にはそれだけではありません。
制度があることを知らなかった人。相談先がわからないまま年月が過ぎた人。どこかで一度つながりかけたものの、そのまま途切れてしまった人。むしろ、こちらのほうが多いくらいです。
この違いは、最初の入り方に効いてきます。断っている方には、断った理由と記憶があります。そこへ新しい支援者が「何かお困りですか」と尋ねても、本音は出てきません。一方、知らなかった方や途切れた方は、拒んでいるわけではないのに、こちらから見ると同じように「反応がない人」に見えることがあります。そこを一括りにして「拒否」と扱ってしまうと、本来つながるはずだった人を遠ざけます。
どちらにしても、最初に目指すのは問題の把握ではありません。会ってもらえる関係になること、それだけです。
会えない時間を、支援の時間として数える
顔を見るまでに何か月もかかることは珍しくありません。玄関の外から声をかけるだけの時期が延々と続いて、ようやく繋がったケースもありました。
この時期を「まだ何も進んでいない」と数えてしまうと、焦りが出ます。焦ると踏み込みたくなり、踏み込めば切れます。そして一度切れた関係をつなぎ直すには、最初より長い時間がかかります。
声をかけ続けている期間そのものが支援の一部だと考えておく。そのほうが、結果的には近道でした。
会える前にできること──特に民生委員との関係
待っている間、何もしていないわけではありません。本人と話せる状態になる前に、周りから情報を集めておきます。家族、ケアワーカー、以前関わっていた事業所。そして、近所の方々です。
なかでも民生委員は、きわめて重要な情報源でした。日常的に地域を見ていて、どの家に誰が住み、最近どう変わったかを知っている。専門職が訪問して初めて気づくことを、その何か月も前から把握していることが少なくありません。
ここで大事なのは、困ったときに頼るのでは遅いということです。ケースが立ち上がってから挨拶に行っても、話してもらえるのは表面的なことまでです。だから普段から民生委員との関係づくりを大切にしていました。用がないときに顔を出し、地域の話を聞いておく。その積み重ねがあるかどうかで、いざというときに入ってくる情報の深さが変わります。
支援者が本人と関係をつくるのと同じことを、地域に対してもやっておく。そういう感覚に近いと思います。
会えたときに、いきなり本題に入らない
実際に会える段になったときも、聞く項目は事前に準備して持っていきました。その場で思い出そうとすると、必ず漏れが出るからです。ただし、持っていくだけで、順番どおりに尋ねることはしません。
雑談から入って、聞き取りに見えないように進めます。構えられてしまえば、せっかく会えても本音は出てきません。
言葉以外から拾えることも多くあります。家の中の様子、物の置かれ方。本人が話さないことを、暮らしのほうが語っていることがあります。
ゴミ屋敷では、本人が困っていないことがある
ここが、ほかの困難ケースと性質の違うところです。
ゴミ屋敷の相談は、多くの場合、本人からは来ません。臭いがする、虫が湧いている、火事が心配だという周囲の声が先に届きます。つまり困っているのは周りであって、本人はそう感じていないことがある。
そうなると、支援は片付けから始まりません。まず見るべきなのは、なぜそうなったのかです。
なぜ、その家はそうなったのか
同じ「ゴミ屋敷」でも、そこに至った道筋はまったく違います。
体が動かなくなって、掃除やゴミ出しができなくなった方。もともと片付けが苦手で、どこかで追いつかなくなった方。パートナーとの死別のような喪失をきっかけに鬱状態になり、やる気そのものが失われてしまった方。そして、そこから物への執着につながっていく場合もあります。
原因が違えば、必要な手当ても違います。体が動かないのであれば、動かなくても回る仕組みを入れればいい。気持ちが落ちているのであれば、片付けより先に、その回復のほうが先です。片付けの前にここを見極めないと、何をしても的を外します。
そのゴミは、誰から見たゴミなのか
もうひとつ、立ち止まるところがあります。
私たちが「ゴミ」と呼んでいるものは、本人にとってもゴミなのか。
寂しさを紛らわすために集めたものかもしれません。本人にとっては宝物かもしれません。外から見れば不要な山でも、その人の生活史の中では意味を持っている。そういうことが、実際にあります。
だから、本人の許可なく捨てないという原則が出てきます。これは手続きの話ではありません。何がゴミで何がそうでないかを決める権利は、本人の側にあるという話です。
支援としては、本人と周囲の人との間にある衝突を、どうすり合わせるかという作業になります。本人がどこまでなら受け入れられるのか、周囲はどこまでなら待てるのか。その線を一緒に探していく。片付けはその結果として起きるもので、入り口ではありません。
一気に片付けたケースは、かなりの確率で戻る
実際に見てきた範囲で言えば、支援者が一気に片付けたケースは、かなりの確率で元の状態に戻ります。
理由ははっきりしています。原因に対する手当てができていないからです。
体が動かないという事情がそのままなら、片付けた翌日からまた溜まり始めます。気持ちが落ちている状態が変わっていなければ、きれいになった部屋は数か月ももちません。片付けたのは結果の部分だけで、そこに至らせた理由には何も触れていない。
だから再発します。そして二度目は、本人も周囲も、支援への期待を失った状態から始めることになります。
完璧に綺麗にするのは、支援者のさせたい生活
それでも、サービスを入れて完璧に綺麗にしたがる支援者がときどきいます。悪気はなく、むしろ熱心な人ほどそうなる。部屋は見違えるようになり、周囲からも感謝されます。
けれどもそれは、本人が望んだその人らしい生活ではなく、支援者のさせたい生活になってしまっていることがある。片付いた部屋は、支援者にとってわかりやすい成果です。わかりやすいからこそ、誰のための片付けだったのかを見失いやすいのだと思います。
そして先に書いたとおり、その片付けは高い確率で元に戻ります。本人のためにもなっておらず、結果も残らない。
できない部分を補い、できる部分は本人に残す
では、どうするか。原因に手当てをしながら、本人の力を落とさない形を探すことになります。
やってあげるのは簡単です。ただ、本人の側に力が残らないと、やってもらうのが当たり前になり、根本のところは解決しません。だから、できるだけ自分でできるように、環境のほうを整えるようにしていました。
たとえば、ゴミ捨て場まで歩いて行けない方。そこは回収してくれる業者を雇って、外に出してしまう。これが「原因への手当て」にあたります。そのうえで、家の中の掃除は一緒にやってみる。できない部分は補い、できる部分は本人の手に残す。そうして少しずつ、やる気を引き出していきました。
考え方としては、認知症の方への関わりと同じです。できることを奪うと、進行は早まります。やってあげるほど、その人の力は落ちていきます。
片付けは終わりではなく、始まり
進め方として決めていたことが、いくつかあります。
本人の許可なく捨てないこと。ひとつずつ確認しながら進めること。衛生より先に関係づくりを置き、まずは通うこと。行政、保健所、清掃と役割を分けて、介護側だけで抱え込まないこと。
そして、片付いた後に生活支援を入れること。ここが抜けると、数か月で元の状態に戻ります。片付けは支援の終わりではなく、そこからが本番です。
時間がかかることを、最初から見込んでおく
困難ケースは、担当になった時点で時間がかかるとわかっています。それでも支援者の側には「早く解決したい」という気持ちが出ます。その気持ち自体は悪いものではありませんが、本人の時間の流れとは別のものだと意識しておいたほうがいい。
1回目から本音で困りごとを教えてくれる人は、困難ケースにはいません。会えない時期、断られる時期、何も変わらないように見える時期。そこを支援の時間として数えられるかどうかが、最後に効いてきます。
支援者は、解決する人ではない
ここまで書いてきたことは、結局ひとつのことに行き着きます。
困難ケースで支援者がやることは、問題を解決してあげることではありません。本人の生きる力を支えて、一緒に進む伴走者になることです。
片付けてあげた部屋は戻ります。こちらが決めた生活は続きません。本人の中に力が残っていなければ、どんなに整えても、支援者が離れた時点で元に戻ります。
逆に言えば、進みが遅くても、本人が自分で一歩を出しているのであれば、それは前に進んでいます。玄関の外から声をかけるだけの何か月も、ゴミをひとつずつ確認していく時間も、本人が自分のペースで動くための時間です。
支援者がいなくなった後も、その人の生活が続くこと。そこを目指すのであれば、先回りして解決するより、横で一緒に歩くほうが結局は早い。困難ケースに関わるなかで、私はそう考えるようになりました。
参考(制度について)
- 厚生労働省「地域包括ケアシステム」(地域包括支援センターの役割)
- 厚生労働省「民生委員・児童委員について」
- 厚生労働省「市町村・都道府県における高齢者虐待への対応と養護者支援について」の改訂について(セルフ・ネグレクトへの対応の通知を含む)
この記事はAIの補助を受けて作成し、介護現場18年の筆者が内容を確認しています。


コメント