「利用者さんの名前、AIに入れちゃダメですよね?」——先日、20代の後輩職員から真顔で聞かれました。答えは「ダメ」なのですが、正確に言うと「サービスと設定によっては、限りなくグレーからブラック」です。この曖昧さが現場を混乱させています。
そこで今回は、現在広く使われている主要な生成AIサービスを、個人情報の取り扱いという視点から本気で比較してみました。介護業界に限らず、医療・教育・士業など「守秘義務」を持つあらゆる仕事の人に読んでほしい内容です。
そもそも何が問題なのか、17秒で説明したい
生成AIに入力した文章は、原則としてサービス提供元のサーバーに送信されます。そして設定によっては「AIの学習データ」として再利用される可能性があります。つまり、うっかり「佐藤花子さん(85歳、独居、要介護3、認知症あり)」なんて入れてしまうと、それが世界中のAIの”栄養”になり得るということです。
実際、主要な生成AIサービスのプライバシーポリシーを読み込んでみると、いずれも相当なボリュームがあります。全部読んでいる人は、ほとんどいないのが現実です。
生成AIサービスを個人情報視点で比較する
主要サービスの学習利用・保持ポリシーの傾向
| 項目 | デフォルトで学習に使うか | チャット履歴の保持 | 人間レビューの可能性 | API経由なら学習除外 | 法人向けプラン |
|---|---|---|---|---|---|
| 学習データに使う設計のサービス | 使う(オプトアウト可) | 数週間〜数ヶ月単位で保持されることが多い | あり(違反疑い時やサンプル審査) | 多くの場合、除外される | 法人・チーム向けプランあり |
| デフォルトで学習に使わない設計のサービス | 使わない(ポリシー上) | 一定期間後に削除される設計 | あり(限定的) | 同様に除外される | 法人・チーム向けプランあり |
重要なポイントは、サービスによってデフォルトの学習利用設定が異なるということです。デフォルトで学習に使うサービスでは、設定画面から「学習に使わない」に切り替える必要があります。多くの人はこの設定の存在すら知らないまま使っています。各サービスのプライバシーポリシーや設定画面を、一度必ず確認するようにしてください。
「無料版か有料版か」より「設定してあるか」が重要
よく「無料版は危ないから有料版にすべき」と言われますが、プライバシー設定のオン/オフのほうが影響が大きいケースが多いです。有料版でも学習利用オンのまま使えばリスクは残るし、無料版でもオフにしてあれば一定は守られます。プランよりも設定の確認を優先しましょう。
現場でヒヤッとした2つの場面
ケース1:ケアプラン更新期の”ながら入力”
2〜3月と8〜9月はケアプラン更新が集中します。複数名の担当を持つと、1件あたりの文章を練るのにそれなりの時間がかかります。去年、疲れて頭が回らなくなり、「AIに下書きさせよう」と思った瞬間がありました。
手が止まったのは、入力しようとした文章に生年月日・既往歴・家族構成・服薬名がフルセットで入っていたから。当時はプライバシー設定を確認していませんでした。もし送信していたら、と思うと今でも寒気がします。
ケース2:夜勤明けの申し送りメモ
複数ユニットを少人数で見る夜勤明け、頭がぼーっとした状態で申し送り資料を整えていたときのこと。「これAIに要約させたら早く終わるな」と思いつきました。介護記録には転倒・排泄・服薬拒否など、まさに「本人が絶対に外に出したくない情報」が並んでいます。
疲れているときほど判断が甘くなる——これはヒヤリハットと同じ構造だと気づきました。
他のブログがあまり書かない「匿名化の落とし穴」
「名前を伏せて入力すれば大丈夫」という話をよく聞きますが、これが意外な落とし穴です。名前だけ「Aさん」に変えた文章でも、以下のような情報の組み合わせで個人が特定できる可能性が生じます。
- 「〇〇市の特養」+「元教員」+「戦時中に満州にいた」+「95歳」
- 「グループホーム」+「双子の姉妹」+「同じユニット入居」
- 「小規模多機能」+「元町議会議員」+「脳梗塞後の失語」
複数の属性が組み合わさると、地域内で「あの人だ」と分かってしまう。これは介護に限らず、患者情報・生徒情報・顧客情報でも同じ構造です。匿名化とは「名前を消すこと」ではなく「特定できないレベルまで情報を削ること」——ここを勘違いしている人が驚くほど多いと感じています。
じゃあ、どう使い分ければいいのか
私なりの3段階ルール
- 個人情報ゼロの汎用作業(例:文章校正、一般的な調べもの、レシピ相談)→ どの生成AIサービスでもOK
- 業務っぽいが個人特定情報なし(例:一般的なケアプラン文例、会議資料の構成案)→ 学習オフ設定のうえ、デフォルトで学習に使わない設計のサービスまたは法人向けプランを推奨
- 個人が特定されうる情報を含む→ そもそも生成AIに入れない。使うなら院内・施設内でクローズドに動くAI環境のみ
この線引きを職員全体で共有しておくと、「入れていいか迷う時間」がなくなります。周囲の話を聞いていると、「ゼロか、施設専用AIか」の二択に整理するだけで、生成AI活用の判断がずいぶんスムーズになったという声があります。
まとめ:AIを疑うのではなく、自分の入力を疑う
主要な生成AIサービスを比較して分かったのは、「一番安全なAI」を選ぶより「一番安全な使い方」を身につけるほうが本質的だということです。デフォルトで学習しない設計のサービスは魅力的ですが、そこに個人情報を入れていい理由にはなりません。
介護でも医療でも教育でも、私たちが扱っているのは「本人が渡してくれた信頼」そのものです。便利さと引き換えに、その信頼を軽々しくクラウドに投げないこと。生成AI時代の新しい職業倫理は、たぶんそこから始まると思っています。
皆さんもぜひ、今日一度だけ自分が使っている生成AIサービスのプライバシー設定画面を開いてみてください。5分で終わります。どのサービスを使うにせよ、まずそこからです。
この記事を書いた人
AI介護士kaze運営者。介護福祉士・ケアマネジャー・社会福祉士の資格を持ち、介護現場歴18年。現場のリアルな課題感を起点に、AI×介護の実用性を探求・発信しています。


コメント