「先生、このアセスメント文、なんか他の人のと似てません?」──主任ケアマネの後輩から相談を受けたのは、去年の秋のことでした。彼女がChatGPTに「アセスメントを書いて」と投げて出てきた文章は、確かにどこかで見たような、当たり障りのない一般論の羅列。利用者Aさんの顔がまるで浮かんでこない文章でした。
ケアマネ業務は、月末月初のモニタリング記録・給付管理・担当者会議の資料作成が重なると、1人あたり月40〜50時間の残業になる月もあります。だからこそChatGPTを使いこなしたい。でも、投げ方(プロンプト)ひとつで、返ってくるものが「そのまま使える下書き」にも「二度手間になるゴミ」にもなる。今日は、この分かれ目の話をします。
そもそも、なぜケアマネのプロンプトは失敗しやすいのか
私が現場で見てきた限り、ChatGPTを触り始めたケアマネの8〜9割は、最初の1〜2週間で「思ったより使えない」と離脱します。原因はAIの性能ではなく、投げ方にあります。
介護現場ならではの3つの壁
- 壁1:個人情報を入れられない → 具体性が失われて抽象的な回答になる
- 壁2:介護保険用語のニュアンスがAIに伝わりにくい → 「自立支援」「意向」などが曖昧に扱われる
- 壁3:施設・地域ごとのローカルルール → 一般論の回答しか返ってこない
特に壁1は深刻で、後輩ケアマネから「氏名や住所を伏せたら、AIが誰の話をしているか分からなくなって、当たり前のことしか書いてくれない」という相談を何度も受けました。
「出ないプロンプト」と「出るプロンプト」を並べて検証してみた
私が実際に業務を想定してChatGPT(GPT-4o)で試した比較です。同じ場面「独居・要介護2・軽度認知症のあるBさんのモニタリング記録の下書き」を作らせました。
| 項目 | 出ないプロンプト | 出るプロンプト |
|---|---|---|
| 指示の粒度 | 「モニタリング書いて」 | 役割・状況・出力形式まで指定 |
| 回答の文字数 | 約200字の一般論 | 約600字の具体的下書き |
| そのまま使える度 | 1割以下(ほぼ書き直し) | 6〜7割(微修正で完成) |
| 作業時間 | 結果的に30分以上 | 10分前後 |
実際に使えたプロンプト例1:モニタリング記録の下書き
あなたは経験10年の主任介護支援専門員です。
以下の情報から、居宅サービス計画のモニタリング記録の下書きを作成してください。
【利用者の状況】(※氏名は伏せています)
・80代女性、独居、要介護2、軽度の物忘れあり
・利用サービス:通所介護 週2回、訪問介護(生活援助)週3回
・前回モニタリングからの変化:デイでの入浴を最初は拒否していたが、
今月から週1回入浴できるようになった
・本人の発言:「デイの職員さんが優しいから行くのは嫌じゃない」
・家族(長女)の意向:「入浴だけでも助かる」
【出力形式】
1. サービス提供状況(150字程度)
2. 目標達成状況(150字程度)
3. 本人・家族の意向(150字程度)
4. 今後の方針(150字程度)
【条件】
・自立支援の視点を必ず含める
・「様子観察」「特変なし」など曖昧表現は避け具体的に書く
実際に使えたプロンプト例2:家族への説明文
担当者会議の日程調整で、遠方の家族に文書で状況を伝える場面。感情のトーン調整が難しく、私も昔はこれで30分悩んでいました。
あなたは介護支援専門員です。
以下の状況で、遠方に住むご家族(息子様)への
お手紙の文案を作成してください。
【状況】
・要介護3のお父様(独居)の担当ケアマネ
・最近、服薬の飲み忘れが週2〜3回発生
・訪問看護の追加を検討したい
・息子様は月1回帰省、電話は週1回程度
【トーン】
・不安を煽らず、事実を淡々と伝える
・提案は押し付けず、選択肢として示す
・400字程度、敬体で
【必ず含める要素】
・現状の事実
・想定されるリスク
・提案するサービス変更の内容
・息子様に判断いただきたい点
意外な落とし穴:「良いプロンプト」が現場を苦しめることもある
ここが他ではあまり書かれていない話です。プロンプトを磨きすぎた結果、逆に困った場面が2つありました。
落とし穴1:AIの文章が「うますぎて」浮く
あるとき、後輩が作ったモニタリング記録を読んだ他職種から「なんか、この人の記録だけ文章が急にきれいになりましたね」と指摘されたことがありました。担当者会議で違和感を持たれると、信頼関係にヒビが入ります。AI下書きは、あえて自分の言葉に崩す工程が必要です。
落とし穴2:プロンプトを共有した瞬間、施設の記録が均質化する
良いプロンプトを施設内で共有したら、3人のケアマネの記録の書き出しがそっくりになった、という話も聞きました。ChatGPTは同じ指示に対して似たパターンで返す傾向があるためです。私が試した対策は、プロンプトの最後に「文体は箇条書き中心で」「文体はですます調で3文以内の短文で」など、書き手ごとにスタイル指定を変えること。これで表面的な均質化はかなり防げました。
プロンプト設計の3つのコツ、順番が大事
色々試した結果、私は次の順番でプロンプトを組み立てるようにしています。
- ①役割を与える:「あなたは経験10年のケアマネです」で回答の質が明らかに変わる
- ②状況を数値と事実で書く:「最近調子が悪い」ではなく「服薬飲み忘れ週2〜3回」
- ③出力形式を指定する:文字数・見出し・トーンまで指定すると修正時間が激減
この順番で書くだけで、返ってくる文章の「使える度」が体感で2〜3倍変わります。逆に、状況だけを長々と書いて役割と出力形式を省くと、いくら情報を足しても薄い回答が返ってきます。
まとめ:プロンプトは「AIへの指示書」ではなく「自分の思考の整理」
18年現場にいて分かったのは、プロンプトを書くという作業自体が、実はケアマネにとっての思考整理になっているということです。「この利用者さんの状況を、他人に伝わる形で言語化する」──これはケアマネ業務の本質そのもの。ChatGPTに指示を出すために状況を整理していると、頭の中でアセスメントが進んでいることに気づきます。
個人情報の扱いには当然注意が必要ですし、AIの下書きをそのまま提出するのは絶対NGです。ただ、プロンプトを磨くことは、AIを賢く使うためだけでなく、ケアマネ自身の視点を鍛える訓練になる。私はそう考えています。使うかどうかは別として、一度自分の担当ケースで試してみてほしいと思います。
この記事を書いた人
AI介護士kaze運営者。介護福祉士・ケアマネジャー・社会福祉士の資格を持ち、介護現場歴18年。現場のリアルな課題感を起点に、AI×介護の実用性を探求・発信しています。


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