AIで記録が楽になると信じたら手書きメモが増えた話

「AIで記録が楽になる」と信じていたら、逆に手書きメモが増えた話──現場で見つけた独自の工夫 AI活用術

「これ、音声入力で全部いけますよ」──2年ほど前、あるベンダーさんの営業さんに言われた一言を、今でもよく覚えています。夜勤明けで頭がぼーっとしている私に、その言葉はまるで救いのように響きました。夜勤帯の長い時間を少人数で入所者を見守り、記録は明け方から書き始める。あの疲労の中で、AIが記録を肩代わりしてくれるなら、こんなにありがたい話はない。

ところが、実際にいくつかの音声入力ツールや記録支援AIを検証してみて、私は真逆の現象に遭遇しました。手書きメモが、むしろ増えたのです。

そもそも、なぜ「AIで記録が楽になる」と信じていたのか

介護記録は本当に時間を食います。私の感覚では、遅番1回あたりの記録時間はそれなりのまとまった時間になります。特養で複数の入所者を担当した日は、記録だけで残業になることも珍しくありませんでした。ケアプラン更新月にいたっては、モニタリング記録の追記でさらに時間がかかる。

だから、こう思っていました。

  • 音声で話せば、AIが文章化してくれる
  • キーワードを言えば、テンプレを埋めてくれる
  • 結果として、記録時間が大幅に短くなる

この期待、半分は当たっていて、半分は大きく外れていました。

実際に試した方式と、感じたギャップ

個人で検証できる範囲で、いくつかの方式を試してみました。

方式 期待していたこと 実際に感じたギャップ
スマートフォンの音声入力機能 喋るだけで記録完成 専門用語(仙骨部、傾眠、ムセ込み等)の変換ミスが多発
生成AIによる文章整形 箇条書き→ですます調に自動変換 「Aさんが〜」を推測で書き足すことがあり、事実確認の手間が増える
介護記録ソフトのテンプレート機能 選ぶだけで記録完成 選択肢にない場面は結局手入力、テンプレート選びに時間がかかる

「手書きメモが増えた」という逆説の正体

音声入力を使い始めて気づいたのは、「後で音声入力するために、忘れないようメモを取る」という行動が生まれたことでした。

たとえば入浴介助中。以前なら、その場で頭の中に「Bさん、右膝に発赤あり、看護師報告済み」と留めておいて、記録タイムにそのまま書いていました。ところが音声入力を意識すると、「後でちゃんと文章にしなきゃ」というプレッシャーから、ポケットのメモ帳に走り書きをするようになった。結果、手書きメモ→音声入力→文字修正という3工程になり、以前の頭の中→手書き入力という2工程より、むしろ時間がかかる場面が出てきたのです。

これは技術のせいではなく、人間の側の問題

ここが今回、私が一番伝えたかったポイントです。AIツールそのものが悪いのではなく、「AIに正確に伝えなきゃ」という緊張感が、かえって現場の動きを重くするという現象があるのです。長年、頭の中でざっくり整理して書いてきた人間ほど、この落とし穴にハマりやすいと感じました。

【現場発の独自視点】記録AIとの相性は「その人の記憶の型」で決まる

ここが他のレビュー記事ではあまり触れられていない切り口だと思うので、じっくり書きます。

周囲の職員にヒアリングしてみたところ、記録の書き方には大きく2タイプありました。

  • その場メモ派:場面ごとにメモを取り、後でまとめて記録に転記する
  • 一気書き派:記憶を頼りに、記録タイムでまとめて書く

面白いことに、音声入力AIとの相性が良かったのは「その場メモ派」でした。もともとメモを取る習慣があるので、それをそのまま音声化するだけ。一方、私のような「一気書き派」は、AIを使うために新しくメモ工程を追加することになり、逆に負担が増えたわけです。

じゃあ「一気書き派」はAIを諦めるべきか

いえ、そこで私がたどり着いた独自の工夫が、「音声入力ではなく、生成AIに”下書きを膨らませてもらう”使い方」でした。

具体的にはこんな流れです。

  • 記録タイムに、いつも通り自分の言葉で短く書く(例:「昼食全量、傾眠あり、口腔ケア拒否」)
  • それを生成AIに「介護記録の文体で、事実のみ膨らませて」と指示
  • 出てきた文章を、事実と違う部分だけ削って整える

この方法だと、記録にかかる時間が体感でいくらか短くなったと感じています。ポイントは「AIに新しく喋る」のではなく「自分の書き方に、AIを後付けする」という発想の転換です。

導入を検討している人に伝えたい、3つの確認ポイント

もし施設としてAI記録支援を検討するなら、営業トークを鵜呑みにする前に、以下を確認することをおすすめします。

  • 職員の記録スタイルを事前に把握する:その場メモ派が多いか、一気書き派が多いかで、選ぶツールが変わる
  • 一定期間のトライアルで、記録時間を実測する:「楽になった気がする」ではなく、ストップウォッチで測る
  • 専門用語の辞書登録機能があるか:「仙骨部」「ADL」「BPSD」あたりの変換精度で使い勝手が決まる

まとめ:AIは「記録を肩代わりする道具」ではなく「自分の型を強化する道具」

「AIを入れれば記録が楽になる」というのは、半分正しくて半分間違いです。少なくとも私が検証した限りでは、使う人の記録スタイルとツールの設計思想が噛み合わないと、逆に負担が増えることがあります。

大切なのは、AIに合わせて自分を変えるのではなく、自分の記録の型を理解した上で、そこに合うAIの使い方を選ぶこと。長年染みついた書き方は、そう簡単に変わりません。だったら、その書き方を活かせる使い方を探すほうが早い。これが、いろいろ試して回り道をした末に、私がたどり着いた素朴な結論です。

現場のリアルは、パンフレットに書いてある成功事例よりずっと複雑で、ずっと面白い。次にAIツールの営業さんが来たら、「うちの職員、その場メモ派が多いですか?」と逆質問してみようと思っています。


この記事を書いた人
AI介護士kaze運営者。介護福祉士・ケアマネジャー・社会福祉士の資格を持ち、介護現場歴18年。現場のリアルな課題感を起点に、AI×介護の実用性を探求・発信しています。

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