介護現場の業務自動化を1年近く続けてきて、一番大きく変わったのは技術力ではなく「完成」の定義でした。
最初のころは、マクロがエラーなく最後まで実行されたら完成だと思っていました。今は違います。エラーが出ないことと、現場で使えることの間には、想像以上に大きな距離があります。今回は、その距離をどう埋めてきたか、AIと一緒に開発する実践フローと合わせて書きます。
「技術的な成功」と「現場での成功」
マクロが最後まで実行される。これは技術的な成功です。でも現場での成功の条件は、まったく別のところにあります。
- 配置が自然で、人が見て違和感がない
- 特定の人への偏りが少ない
- 担当者の修正量が少ない(自動化したのに手直しだらけなら意味がない)
- 操作が分かりやすい
- 毎月、安定して使える
- 職員の増減に対応できる
- エラーが起きても、データが壊れない
実際、勤務表の自動化では「エラーは一切出ていないのに、一部の職員に8連勤が発生していた」ということがありました。プログラムとしては正常終了。勤務表としては完全に失格です。業務自動化の完成条件は「コードが動くこと」ではなく「担当者が使い続けられること」。この視点の転換が、すべての出発点でした。
AIと一緒に開発する、実際に有効だった12ステップ
生成AI(ChatGPTやClaude)と一緒にExcel VBAを開発してきた中で、実際に機能した進め方を整理すると、こうなります。
- 元ファイルの構造を把握する(シート構成、列の意味、既存の数式)
- 現場ルールを文章化する(これが一番大事で、一番大変)
- まず小さい機能から実装する
- 実行する
- エラー画面や不自然な結果をAIに共有する
- 原因候補を一緒に切り分ける
- 修正版を作る
- 実データで確認する
- 現場の担当者からフィードバックをもらう
- 新しく分かったルールを追加する
- その修正が全体に副作用を起こしていないか確認する
- 分かったことを仕様メモに反映する
このサイクルを何周も回します。ポイントは、1周で完成させようとしないことです。
AIは「一発で完成コードを出す魔法」ではない
生成AIを使った開発というと、「要望を伝えたら完成品が出てくる」イメージを持つ方が多いかもしれません。実際にやってみた感覚は違います。
AIが一発で出してくるコードは、伝えたルールの範囲では正しく動きます。問題は、現場のルールを最初から全部伝えきることが人間側にできないことです。動かしてみて初めて「そういえば、この場合はこうするんだった」と思い出す。現場に見せて初めて「ここはこうじゃない」と指摘される。つまり、開発の本体はコード生成ではなく、現場知識を持つ人間と、コードと整理を支援するAIとの反復作業です。
この構図が腹落ちしてからは、AIへの期待値も変わりました。「完璧な答えをくれる先生」ではなく、「疲れずに何度でも付き合ってくれる開発パートナー」。エラー画面を貼れば原因候補を挙げてくれて、ルールを追加すればロジックに反映してくれて、何度作り直しても嫌な顔をしない。この反復に付き合ってくれること自体が、AIの一番の価値だと思っています。
ステップ2と9が、結局すべてを決める
12ステップの中で、成果物の質を最終的に決めていたのはコーディングのステップではありません。「現場ルールの文章化」(ステップ2)と「現場からのフィードバック」(ステップ9)です。
ルールの言語化が粗ければ、どれだけ優秀なAIでも粗いものしか作れません。そして、作った本人が気づけない問題は、現場の目でしか見つかりません。技術は真ん中の工程を速くしてくれますが、入口と出口は人間の仕事のままです。
これから業務自動化を始める方は、コードの勉強より先に、自分の業務ルールを紙に書き出すことから始めてみてください。それが結局、一番の近道です。
AI介護士kaze運営者。介護福祉士・ケアマネジャー・社会福祉士の資格を持ち、介護現場歴18年。現場のリアルな課題感を起点に、AI×介護の実用性を探求・発信しています。


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