「住所順にしたのに送迎順がおかしい」──デイサービス配車表の自動化と、現場に鍛えられた話
「配車表もAIで自動化できないの?」
ショートステイ受付簿の自動化がひと段落したころ、ふと自分でそう思って、そのまま生成AIに投げてみました。デイサービスの送迎で、毎日3台の車両に利用者を振り分ける作業です。エリア、車椅子の有無、送迎希望時間、車両ごとの定員。頭の中で組み合わせを考えるだけでも地味に時間を取られる作業で、これこそAIに向いていそうだと思っていました。
今回はこの配車表アプリを設計から現場フィードバックまで進めた過程を振り返ります。先に結論を言うと、一番勉強になったのは、自動配置が「できた」後に現場から返ってきた一言でした。
あえて地図APIを使わない、という選択
配車ロジックと聞くと、真っ先にGoogle Maps APIのようなルート最適化を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。実際、最初にAIと話していたときもその選択肢はありました。
でも結局、地図連携はあえて使わずに「エリアを手入力してエリア単位でまとめる方式」から始めました。理由は単純で、現場が実際にやっているのはナビでもルート最適化でもなく「土地勘のあるスタッフの経験則」だからです。それに、地図APIを使わなければ完全に無料で運用できるというのも地味に大きな理由でした。VBAマクロだけで完結する仕組みです。
最初に固めたルールはこうなりました。
- 車椅子が「絶対車椅子」の人は、必ず車椅子枠(各車両の車椅子定員内)を使う
- 「どちらでも」「絶対ダメ」の人は、通常の枠を使う
- 同じエリアの人はできるだけ同じ車両にまとめる
- 車両内の訪問順は、送迎希望時間が早い人を優先する
- 前回と同じ車両に空きがあれば、なるべく同じ車両を維持する(変更箇所だけハイライト)
車両は3台、各車両定員8名(うち車椅子は最大2名まで)という構成です。
「車椅子」の定義がすれ違った話
設計の途中で、実は一度AI側との理解がズレたことがありました。
車椅子の扱いを「絶対車椅子/どちらでも/絶対ダメ」の3択で管理する、というところまでは早々に合意できました。ところが「絶対車椅子の人は必ず車椅子枠を使う、それ以外は通常枠を使う」という定員計算の前提を、AIが一度別の解釈で組みかけたのです。ここは「車椅子は2台まで乗せられて、人数は車椅子含めて最大8名」という現場の実態を改めて説明し直し、認識をすり合わせました。この手の「定員の数え方」のような基礎ルールを最初にきっちり合わせておかないと、後段のロジック全体が狂ってしまいます。
実運用に向けて追加した、地味だけど大事なチェック
実データでの運用を見据えて、配車処理の前後にチェック工程を挟む形に整えていきました。流れとしては、実行前チェック→利用者情報の更新→利用予定者の抽出→車両候補の作成→自動配置のプレビュー→未配置・定員超過のチェック→問題がなければ曜日別の配車表へ書き込み、という順番です。
条件として扱う情報も、当初想定していたエリア・車椅子・送迎希望時間だけでは足りませんでした。往路と復路の違い、当日の休み、ショートステイ利用中などの状態、早めの送り・遅めの送りといった個別要望。「配車」という一つの業務の裏に、これだけの判断材料が隠れていたということ自体が、自動化してみて初めて見えたことでした。
現場からの一言:「送る順番がバラバラ」
自動配置が動くようになって、実際に使ってもらった担当者から返ってきたのがこの指摘でした。
「配車はできてるけど、送る順番がバラバラ」
エリア名や粗い住所分類だけでグループ化する初期方式では、実際の道路上の近さを表現できていなかったのです。同じエリアに分類されていても、実際に車で回ると行ったり来たりする順番になってしまう。
改善として、住所の文字列をより細かく使うことにしました。町名、丁目、番地、号、団地・棟といった単位まで可能な範囲で比較して、並び順を実際の移動に近づけていく方式です。それでも「住所が近い」と「道路で走る順番として最適」は本質的に別問題で、ここを本気で詰めるなら無料のジオコーディングで緯度経度化する、道路距離を計算する、といった発展の方向も見えています。ただ、現時点では住所の細分化比較で現場の納得感はかなり改善しました。
この開発から持ち帰ったこと
配車表の自動化で一番学びが大きかったのは、「自動配置ができた」時点ではまだ半分だったということです。技術的には動いていても、送迎順という現場が毎日体感する部分が不自然なら、それは使えないシステムです。机上の設計だけでは絶対に出てこなかった「送る順番がバラバラ」という一言が、このアプリを実用レベルに引き上げてくれました。
AIに設計を頼むとき、一番高性能な解決策が必ずしも現場に馴染むとは限りません。地図APIを使わないという初期判断も、住所を細かく比較するという改善も、どちらも「現場がどう感じるか」から逆算した選択です。自動化の精度を上げるのはアルゴリズムですが、方向を決めるのは現場の声だと実感しています。
AI介護士kaze運営者。介護福祉士・ケアマネジャー・社会福祉士の資格を持ち、介護現場歴18年。現場のリアルな課題感を起点に、AI×介護の実用性を探求・発信しています。
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